書きためたメモ、撮りためた写真、誰にも見せていない落書き。どれも中途半端なまま、フォルダの奥で眠っていませんか。
それらは、綴じるだけで本になります。
ZINE(ジン)は、個人が少部数で作る自作の冊子のことです。売っても売らなくてもいい。テーマも決まりもない。表紙をつけて綴じたら、それはもう1冊の本です。作家である必要も、絵が描ける必要もありません。
なぜ「自分の本を作る」が大人にちょうどいいのか
終わりが決まっている
多くの趣味は、どこまでやれば終わりなのかがわかりません。ブログは書き続けるものだし、絵の練習には上限がない。だから途中で止まると「挫折した」感じが残ります。
本は違います。ページが埋まって、綴じたら、終わりです。8ページなら8ページぶんで完成する。終わりが最初から決まっているというのは、忙しい大人にとってかなり大きな利点です。
中身は何でもいい
「本を作る」と聞くと、まとまった作品が必要な気がします。でもZINEの世界では、中身の縛りがほとんどありません。
近所の自販機の写真だけを24枚集めた本。好きな漫画の感想を殴り書きした本。子供の言い間違いを記録した本。実際、そういうZINEが東京・神宮前で毎年開かれるTOKYO ART BOOK FAIRには大量に並びます。2009年に始まった、アート出版に特化した日本初のブックフェアです。
つまり、すでに手元にあるものが、そのまま中身になります。ゼロから作り始める必要がありません。
手元に「物」が残る
スマホの中で完結する趣味との、いちばん大きな違いはここです。
作り終えると、机の上に紙の束が残ります。厚みがあって、重さがあって、めくれる。データではなく物として残るので、数年後にふと開き直すことができます。誰かに渡すこともできます。
4つの入り口を比べる
同じ「本を作る」でも、費用も手間もかなり違います。
| ルート | 費用 | 必要なもの | 完成までの時間 | 仕上がり |
|---|---|---|---|---|
| 8ページ本 | 0円 | コピー用紙1枚・ハサミ | 10分 | 手作り感そのもの |
| 中綴じZINE | 1,000〜3,000円 | 中とじホッチキス | 30分〜1時間 | 薄い冊子らしい形 |
| 和綴じ | 1,000〜2,000円 | 糸・目打ち | 1〜2時間 | 工芸品の風格 |
| 小ロット印刷 | 数千円〜 | 印刷所への入稿データ | 1〜2週間 | 市販の本と同じ |
いちばん軽い入り口——コピー用紙1枚の「8ページ本」
道具も費用もいりません。A4のコピー用紙を1枚用意してください。
縦横に折って8等分の折り目をつけ、中央の折り目に沿ってハサミで短く切り込みを入れる。あとは折りたたむと、紙1枚が8ページの小さな本になります。糊もホチキスも使いません。
まずはこれで1冊作ってみるのがおすすめです。中身は何でもいい。今日あったことを8コマに分けて書くだけでも、ちゃんと本の形になります。「本を作る」という行為が、思っていたより軽いことがわかります。
少し道具を足す——中綴じZINE
ページ数を増やしたくなったら、中綴じです。二つ折りにした紙を重ねて、折り目の部分をホチキスで留める——雑誌やパンフレットと同じ綴じ方です。
必要なのは、綴じ位置を紙の真ん中まで届かせられる中とじ用のホチキス1本だけ。1,000〜3,000円ほどで手に入ります。
これで16ページ、32ページの冊子が作れるようになります。背表紙をつけたい場合は製本テープを足せば、さらに本らしくなります。
伝統の手仕事——和綴じ
糸で綴じる日本の伝統的な製本です。もっとも基本的な「四つ目綴じ」は、背に4つの穴を開けて糸を通していくだけで、手順自体は難しくありません。
ただ、仕上がりの雰囲気が別物になります。糸の色を変えるだけで印象が変わり、和紙を使えば工芸品のような佇まいになる。作業そのものに時間がかかるぶん、手を動かしている時間が長いのがこのルートの特徴です。無心になりたい人向き。
「本物の本」にする——小ロット印刷
手綴じに慣れて「ちゃんとした本にしたい」と思ったら、印刷所に頼む手があります。同人誌文化のおかげで、日本には少部数から受けてくれる印刷所が揃っています。
10部だけ刷って、友人に配って、残りを本棚に置く。それくらいの規模がちょうどいいと思います。
タイプ別の楽しみ方
創作者タイプ——形式そのものを遊ぶ
創作者タイプは、中身だけでなく本の形そのものをいじり始めます。変形サイズにする、途中でページの向きを変える、表紙を布で包む——ルールがないぶん、遊べる余地が大きい。
書く中身のほうから入りたい人は、こちらも合わせてどうぞ。
→ 文章を書く趣味の始め方——日記・ブログ・小説、自分に合うスタイルの選び方
収集家タイプ——紙と道具の沼
収集家タイプにとって、紙選びは本編と同じくらい楽しい工程です。厚さ、質感、色。表紙用の紙を1枚ずつ買い集めているうちに、作る前から満足してしまうこともあります。
道具集めが趣味になるという意味では、カリグラフィーと相性がいいクラフトです。文字を手書きした表紙は、それだけで一点物になります。
→ カリグラフィーを趣味にする——道具を選ぶところから始まる「文字の沼」
妄想家タイプ——「存在しない本」を作る
妄想家タイプにいちばん向いているかもしれません。架空の国の観光ガイド、実在しない映画のパンフレット、行ったことのない街の地図帳——中身が現実である必要はどこにもありません。
頭の中にしかなかった世界が、綴じた瞬間に「物」として存在し始めます。
→ 妄想を形にするノートの使い方——妄想家タイプの頭の中を外に出す方法
観察者タイプ——記録がそのまま1冊になる
観察者タイプは、すでに素材を持っています。撮りためた写真、書きためた気づき。テーマを1つ決めて並べ替えるだけで、本の体裁が整います。
「近所の室外機」「行きつけの店の日替わり」——対象が狭ければ狭いほど、ZINEとしては面白くなります。
→ 「見る力」を武器にする——観察者タイプのスナップ写真入門
よくある挫折パターンと対処法
「中身が思いつかなくて止まる」
先にページ数と判型を決めてしまうのが効きます。「A5・8ページ」と決めると、埋めるべき箱が8つできる。ゼロから考えるより、空欄を埋めるほうがはるかに簡単です。中身が思いつかないのではなく、範囲が決まっていないだけであることがほとんどです。
「人に見せられる質じゃないと思って止まる」
ZINEは商品ではありません。部数1でも成立します。誰にも配らず、自分の本棚に1冊置くために作っていい。「配る」を前提にすると急にハードルが上がるので、最初の数冊は自分用と決めてしまうのが安全です。
「綴じがガタガタになる」
穴の位置がズレるのが原因なので、先に穴の位置だけ定規で測って印をつけると一気に安定します。それでも歪むうちは、それが手作りの証拠だと思ってください。3冊目くらいから急に揃い始めます。
書く、撮る、集める——何をしていても、それは散らばったままだと「途中のもの」に見えます。でも綴じて表紙をつけた瞬間、同じ中身が「1冊」になります。
作る趣味を他にも見比べたい人は、「作りたい」を放置しない——大人のものづくり、どれから始めるかもどうぞ。折り紙・カリグラフィー・樹脂/クレイ・陶芸を、費用と手間で一望できます。
自分がどのタイプかわからない人は暇つぶしタイプ診断を試してみてください。12問で、自分に合う時間の過ごし方の方向が見えてきます。
まずはコピー用紙を1枚、折るところから。